備前焼とは
千年の歴史を継ぐ備前 豊かな自然と良き風情を残す、備前焼のふるさと岡山県備前市伊部の町は、千年近く窯の煙が途絶えたことがないという。そそりたつ熊山連峰のふところに抱かれて育った備前焼をはぐくんだ素朴な風土は、永い歳月をかけ、備前焼の伝統を受け継ぎ、いま約三百基の窯が煙をあげている。
 我が国最古の焼き物のふるさとの歴史や、その歴史が作った先人の営みが深く刻み込まれているのである。
 「日本六古窯」のひとつである備前。なかでも歴史が古く、釉薬をかけることのない焼締めの伝統は今も受け継がれている。土そのままに焼締められた備前焼は、炎を味方に千変万化する焼き上がりとなり、唯一無二の存在感を放つのである。
 土と炎の織りなす芸術、備前焼。その美の世界を訪ねよう。
茶人をも魅了した「焼締め」の伝統 備前焼のルーツを辿ると、古墳時代の須恵器(すえき)に行き着く。岡山県南東部を中心に、窯跡が多数見つかっており、平安時代の書物にも、備前は陶器を納める国のひとつとして記され、良質な須恵器の産地として、祭具や食器が焼かれた。土そのままに焼き締められた備前焼は、古代の最新文明であった固く丈夫な須恵器の手技が受け継がれているのだ。
 鎌倉時代には、主に山土を主体とした粘土による壷・甕・擂鉢が多く作られ、この頃から備前焼特有の赤褐色の焼肌のものが焼かれ始め、粘り気のある土を固く焼き締めた備前焼は、丈夫な器として評判を高め、日本各地に運ばれていった。
 室町時代末から桃山時代になると、「ひよせ」と呼ばれる伊部の地の粘土が使用されるようになる。その頃から備前焼は茶の湯の道具として使われ始め、千利休や古田織部といった茶人達は、備前焼の力強さや侘びた風情を好み、さまざまな道具と取り合わせて茶会を楽しんだ。釉薬を使わない焼締めの伝統は今も受け継がれ、作家や陶工達は思い思いの個性を土に込めている。
窯焚きが生み出す 土と炎の芸術